
9月10日、コミュニティラウンジ「Benten103」にて、第180回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。
今回の講師は、1996年のアトランタオリンピック代表選考会で優勝、引退後、田村亮子選手のトレーニングパートナーや大学女子柔道部監督、実業団女子柔道部監督などを歴任された、中橋治美様。現在は、株式会社ア・ル・クの代表として、長年培った指導や子育ての経験をもとに「中橋メソッド」という幼児体育の方法論を考案、実践されいます。
今回はそうした身体教育の方法論を企業経営に応用し、「事業の勝ちから社会の価値へ ― 超一流の勝ち続け方と、事業の神髄」と題してお話しいただきました。

- 「勝ち続ける」ために必要なもの
柔道選手でも企業でも、目の前の勝負に勝つだけでなく、「勝ち続ける」ためには戦略や技術だけでは不十分です。企業にとって「勝ち続ける力」とは、社会に価値を残すこと。柔道に限らず武道ではしばしば心技体という言葉が使われますが、それら三要素に個別にアプローチしたのでは不十分であり、そもそもそれらを統制している「脳」の働きを理解し、それを高めることで結果的に心技体を統一体たらしめることができます。また、そうして高まった心技体の機能もまた、脳に影響を与え、その機能を高めるのです。したがって、中橋メソッドのフレームワークでは、心技体に脳を加え、「心技体脳」と呼んでいます。
企業にとっての心技体脳は、それぞれ以下のように位置づけることができます。
- 体(理念・土台):理念が揺らげば組織は長続きしない。理念をどこまで浸透させられるかが鍵となる。
- 技(営業・採用・マーケティング・教育):その組織ならではの「強み」がここに現れる。
- 心(あり方・大義名分):あり方が定まっていないと、目標を達成後しても、その後方向を見失いやすい。また、あり方の理解は、幸福度とも関連する。
- 脳:心技体すべてに関わり、行動を左右する。
- 現役時代と転機
尤も、中橋さんも柔道の現役選手だったときには、一般に理解されているように、心=メンタル、技=技術、体=食事・睡眠・身体ケアと捉えていたそうです。転機となったのは、お子さんが体操教室で叱られる姿を見たときで、「(それぞれの子供の意欲を引き出すために)怒らずに指導することはできないものか?」と考えるようになったそうです。そして、子供の可能性を引き出すには、脳の特性を理解した関わり方が必要だと気づき、それが中橋メソッドの考案につながりました。
- 指導者としての学び
監督時代に得た二つの経験も大きく影響しています。一つ目は、冒頭に挙げた「勝つ」だけではなく、「勝ち続ける」ために必要なこと。それには単純に目標を設定したり、稽古で技術を磨くだけでは不十分であり、選手一人一人に「自立して歩み続ける力」が必要だと痛感したそうです。その力を身につけるには、その目標を達成して何を実現したいのかという、理念、大義名分が必要です。そして、それを実現するために自分はどういう人間でいたいのかという「あり方」に目を向けることが不可欠になります。因みに、中橋さん自身の「あり方」は「周りを応援し楽しませること」であり、「大義名分」は「世界平和の中で息子を抱きしめながら走りたい」というものでした。
二つ目は、これを悟った後に起こった経験です。社会人チームのアドバイザーを務めていたとき、非常に重要な試合に向けた強化稽古を前にして、ある有望な選手が退部を申し出たそうです。理由を聞くと、その選手は、「目的は勝つことだが、そのあり方は『周りを楽しませ、応援すること』。これからはそのあり方に沿って、柔道をやめ教員の道を選び後進を応援したい」と言ったそうです。柔道部員としてでなく、一個人として捉えれば、これは間違いではなく正解なのだと。逆に、自分の「あり方」が確立していれば、このような人生の岐路に立っても迷わず選択することができるのだと。
- 夢と人生の目的
「夢」は達成すれば終わり、失敗すれば挫折となる性質を持っています。一方で、「人生の目的」は継続するものであり、これがあるからこそ、たとえある夢を達成した後も燃え尽きることなく次の一歩を踏み出すことができます。本当の人生の目的は何か?スティーブ・ジョブズは死の汀に、「死に際に持っていけるのは愛にあふれた思い出だけ」と述べたそうです。功成り名遂げた彼にしてなお、最後に残るのは「愛にあふれた思い出」だけだと言っているのです。真の豊かさとは何かを私たちに問いかける言葉です。
- 脳の仕組みと指導の工夫
さて、脳の機能にアプローチすることで心技体を活性化し、その結果がさらに脳に還流する正の循環を生むことが根幹にあるとすれば、指導にあたっても、脳の仕組みに基づいた工夫が必要になってきます。そのポイントをいくつかご紹介します。
- 声掛け:脳は否定語を理解しにくいということです。「頑張れ」や「失敗するな」などの否定語は逆効果であり、「きちんと・正しく」、「できるしかない」といった肯定語が行動を促進します。
- 反復:雑な反復より、数は少なくても正しい成功体験を重ねることが、脳回路を強化し次への挑戦を軽くします。
- ドーパミン:脳は楽しいと感じるとドーパミンを分泌し、前向きな行動を引き出します。ただし、やり方を誤るとドーパミンは負のスパイラルを生む方向にも働くので、「楽しいと思えるような仕掛け」をいかに工夫するかが大事です。

- 視覚機能トレーニング
脳の50%は視覚情報に依存しているということです。それにもかかわらず、現代人はデジタル化により目を動かす機会が極端に減り、前頭前野の機能低下が進んでいます。これが集中力や判断力の低下、脳疲労の原因となっています。
今回、前頭葉を鍛える方法として「眼球運動トレーニング」が紹介され、上下左右・斜めの眼球運動を繰り返すことで肩こりや疲労の軽減が短時間で実感できるワークを行いました。個人的な話ですが、僕は眼球を左右に動かす力が弱っていると感じました。また、ちょうど先週からひどく僧帽筋が緊張し、凝りを超えて痛いくらいだったのですが、それが軽くなったのが実感できました。これを書いている日の朝も、鏡の四隅を使って眼球運動トレーニングをしました。
- まとめ
- 心技体+脳を強化すれば、個人も組織も成長できる。
- 意地や根性だけの努力は、脳科学的には悪影響。
- 勝ちは一時的だが、価値は永続的。
AI時代だからこそ、AIにはできない能力を育て、次世代に価値を残す経営を実現することが、生身の人間である経営者に求められています。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした👘
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